口内炎

アフタ口内炎(再発性アフタ)には、漢方薬や針灸治療が効果を発揮します。

1.アフタ性口内炎とは?
アフタ口内炎とは、口腔粘膜に生じる円形または楕円形の潰瘍で、周期的に再発を繰り返すことものを再発性アフタと呼びます。
この病気の名前は、すでに2千年程前の中国の医学書「黄帝内経素問:気交変大論」の中に記載されており、中国では「口瘡」や「口瘍」と呼ばれています。
本病の原因は現代医学でもいまだ明らかにされておらず、最近の研究では、アフタの発症と患者の局所的また全身的な免疫状態が関係するのではないかと考えられています。
アフタの治療には、口腔粘膜用のステロイド軟膏、ビタミンC、パントテン酸、抗ヒスタミン剤などが使用されていますが、現在のところ再発性アフタの再発を防止できる確実な方法はありません。

2.東洋医学ではアフタ性口内炎をどの様に考えるか?
東洋医学では、口内炎の原因を次のように考えています。
急性の口内炎では
・風邪
・飮食の不摂生(脂っこいものや甘いものや味のこいものの過食)
・便秘
・精神的ストレス
再発を繰り返す口内炎では
・慢性病や老化による臓腑の機能低下(気・血・水の消耗)
これらの原因が、単独にあるいは複合して臓腑機能を失調させて体内に熱を発生させます。この熱が口に上昇して粘膜を傷害し、口内炎を引き起こします。
さらに、血液の滞り(東洋医学では?血といいます)も口内炎の発症に関与していると考えられています。

3.アフタ性口内炎の東洋医学的診療
東洋医学的な診断のもとに、口内炎を引き起こした原因を調べ、どの臓腑から熱が生じたのかを診断します。
急性の口内炎では、清熱作用を持つ生薬で粘膜を傷害する熱を冷まし、同時に血液を循環させる生薬で血流障害を改善します。
また慢性的な口内炎では、不足した気・血・水を補い、臓腑の機能を回復させて口内炎の再発を防止します。
さらに、漢方薬に針灸を併用することで、治療効果を高めることができます。
4.症例
症例1
患者:女性 年齢50歳 身長152cm 体重58kg
初診日:平成15年11月
主訴:口内炎と舌の浮腫
現病歴:以前から(時期ははっきりしない)口内炎が頻繁に再発していた。今回は、1週間前から舌尖部に直径2㎜の口内炎が発生し、摂食時に痛む。潰瘍面は白色の偽膜で覆われ、周囲の発赤は軽度である。舌は胖嫩で周辺に歯痕がみられる。
既往歴:貧血
全身症状:疲労倦怠感・息切れ・汗をかきやすい・全身の軽度の浮腫・食欲は旺盛・むねやけや胃のもたれがある・大便は正常・頻尿・口が粘った感じがする・帶下は黄色・体重は増加中。
舌脈所見:舌質淡白色、苔少、胖嫩で歯痕がある、脈やや弱
六君子湯7.5g×7日分合半夏瀉心湯7.5g×7日分
二診:口内炎は治癒。舌所見、胃の症状とも改善する。
六君子湯7.5g×14日分
三診:その後3ヶ月間、口内炎の再発はない。
症例2
患者:男性 年齢62歳
初診日:平成15年9月
主訴;口内炎
現病歴:2週間前にサウナに長時間入り、その後深夜まで飲酒をしたところ、翌日から発熱する。3日前から便秘になり、同時に舌下部に口内炎が生じる。口内炎は直径3mmで辺縁部に発赤があり、黄色の偽膜で覆われている。痛みが激しく飲食にさしつかえる。
全身症状:口の渇きが強く水分を欲する・便秘。
舌脈所見:舌質紅、苔黄、脈実
処方:三黄瀉心湯7・5g×5日分
二診:3日後には潰瘍周囲の発赤は消失し、疼痛も著しく軽減してほとんど気
にならない。

症例3
患者:女性 年齢53歳 身長147cm 体重46kg
初診日:平成15年11月
主訴:口内炎
現病歴:以前から生理の前に口内炎ができる。今回は、1週間前から舌尖部に直径2㎜の口内炎が生じた。周囲の発赤と疼痛は軽度である。
全身症状:疲労倦怠感、息切れ、食欲不振、軟便、皮膚の?痒、ストレス感、いらいら、動悸、不眠、夢が多い、目の充血、眼精疲労、のぼせ、足の冷え、月経前にイライラし、胸脇部が張る、帯下白。
舌脈所見:舌質やや紅、苔少、脈沈細
処方:加味逍遙散合温清飲各7.5g×7日分
二診:5日後に口内炎は治癒する。
加味逍遙散7.5g×3週間分
三診:半年間口内炎は発症していない。
症例4
患者:女性 年齢78歳 身長152cm 体重50kg
初診日:平成16年2月
主訴:口内炎
現病歴:以前から疲労時に口内炎が頻発していた。10日程前から風邪気味で、咽頭の痛みとともに、左側上顎臼歯部に口内炎が生じた。耳鼻咽喉科を受診して咽頭炎は治癒したが、口内炎は改善しないため来院した。口内炎は直径3mmで疼痛がひどく、周囲に発赤がある。
既往歴:30歳で虫垂炎の手術・現在整形外科で骨粗鬆症の治療中
全身症状:半年前から口が乾燥していたが、最近特に渇きが強まる・夜中に起きて水を飲む・寝汗・時に足が浮腫む・息切れ・疲労感・食欲正常・胸やけ・夜間に小便2回・時に動悸・不眠・難聴・腰と膝が痛む。
舌脈所見:舌質やや紅・苔白乾燥・脈細数弦
処方:麦門冬湯合温清飲各7.5g×5日分処方。
二診:口内炎は縮小したが、周囲の発赤はまだ残り、口の渇きは不変。
白虎加人参湯合温清飲各7.5g×3日分処方。
三診:口内炎は治癒、渇きはやや軽減する。
麦門冬湯合白虎加人参湯各7.5g×7日分
四診:渇きは顕著に軽減する。夜中に水を飲まなくなった。
処方は前回と同様。
五診:口腔の乾燥はない。
六診:その後半年間、口内炎の再発は認められていない。

症例5
患者:女性 年齢48歳 身長158cm 体重50kg
初診日:平成16年2月
主訴:口内炎・歯ぎしり・肩こり・頭痛
現病歴:以前から口内炎が頻発していたが、今回は3日前から下顎左側臼歯部の歯肉に口内炎が2ヶ所発生する。周囲は発赤して痛みが強い。同時に1ヶ月前から歯ぎしりがひどく、夜間に目が覚めることがある。側頭部や頸肩部にも痛みがある。
既往歴:15歳で虫垂炎と卵巣嚢腫の手術。1年前からメニエル病と診断される。
全身症状:手足の冷え・手足と顔の浮腫み・疲労感・息切れ・風邪をひきやすい・食欲不振・腹部の膨満感・小便黄色で回数と尿量がともに少ない・ストレス感・イライラ・不眠・目が赤い・眼精疲労・眩暈・耳鳴り・口が粘る・月経中に疼痛・月経量は多く、暗赤色で血塊が混じる・月経前に胸が張る・帶下は白色。
舌脈所見:舌質淡白・辺縁部はやや紅・苔白で乾燥・脈細弦
処方:加味逍遙散合温清飲各7.5g×5日分
下関・頬車・風池・外関・合谷・太衝に刺針。すべて瀉法。
二診:口内炎は治癒。歯ぎしりはやや軽減しているようだが、側頭部や頸肩部の脹痛・眩暈・耳鳴りは不変。
柴胡桂枝乾姜湯合釣藤散各7.5g×7日分処方。
百会(瀉血)・太陽・下関・風池・天柱・百労・肩井・中渚・足臨泣・太衝は瀉法、
三陰交は補法で、留針20分。
三診:歯ぎしり・側頭部の症状・耳鳴りは解消する。

症例6
患者:女性 年齢20歳 身長158cm 体重53kg
初診日:平成16年2月
主訴:口内炎・智歯周囲炎
現病歴:5日前から風邪気味であった。左右上顎第3大臼歯後方に直径2mmの口内炎が生じ、周囲は発赤して痛みを伴う。さらに左右下顎に智歯周囲炎を発症する。
全身症状:現在は咽頭痛、咳嗽、鼻水、悪風や発熱はない。口の渇き、食欲や二便は正常である。
舌脈所見:舌質淡紅・舌尖部は紅・苔白・脈やや浮で数
処方:清上防風湯加桔梗石膏
二診:口内炎は治癒。

温清飲が奏効した再発性アフタの一例

昭和大学高齢者歯科1)日本医科大学東洋医学科2)
○福島 厚1)、三浦 於菟2)、土屋 喬2)

1.はじめに
再発性アフタとは、口腔粘膜に定期的あるいは不定期にアフタの再発を繰り返すもので、口腔内のみに症状が限局するものをさす。原因は不明であるが、自己免疫疾患との関与が報告されている。
再発性アフタは東洋医学では「口瘡」に相当する。口瘡には虚実の違いがあり、肺胃熱盛・心火上炎・肝鬱化火による実証と脾虚湿困・陰虚火旺・心脾両虚による虚証に分類されている。
今回、陰虚内熱により生じたアフタに対して温清飲が著効を示した一例を報告する。

2.症例
患者:62歳男性
初診日:平成14年10月25日
主訴:アフタによる疼痛。
現病歴:一年程前から舌下部、舌の側縁部に直径2~3mmのアフタが頻回に多発する。表面は黄白色の偽膜を有し、周辺に炎症性の紅暈を伴う。耳鼻咽喉科、口腔外科を受診したところ、アレルギー性疾患やウイルス性疾患に伴うアフタではなく、再発性アフタと診断されるが治癒せず。
随伴症状:口の乾き、舌の乾燥、手掌のほてり、眼精疲労、腰痛。
舌脈所見:舌質淡白色(アフタの周囲は紅色)、舌苔少、痩薄、裂紋、脈細弱。
診断:発症の経過や随伴症状から判断して、腎陰虚および肝血虚により虚火が上炎し、粘膜を灼傷して口瘡を形成したと考えられる。
治法:滋陰・補血・清熱
方剤:「滋陰降火湯」7.5g×7日分
「滋陰降火湯」の地黄・天門冬・麦門冬は滋陰、白芍は補血、当帰は補血と活血、また知母は清虚熱、黄柏は清熱の作用を持つ。
本剤は肺陰虚・肺腎陰虚による乾咳・燥痰の治療に常用されるが、一般的な陰虚による虚熱の症候にも適用することができる。
二診:「滋陰降火湯」エキス7.5gを1週間投与したところ、疼痛は多少軽減し
たが、アフタには特に変化は認められなかった。
そこで、「温清飲」エキス7.5gを加えた。
「温清飲」は清熱・涼血作用を持つ黄連解毒湯に補血・活血に働く四物湯を加えた方剤である。
三診:1週間後にはアフタのほとんどが消失する。
「滋陰降火湯」エキスを、3週間投与する。
四診:3ヶ月後に経過を観察したところ、アフタの再発は認められなかった。

3.考察
本症例における弁証論治に大きな問題があるとは思えない。しかし、「滋陰降火湯」の効果は十分ではなく、活血・清熱作用をもつ「温清飲」を加えることでアフタを治癒させることができた。この結果から虚証タイプの再発性アフタに対する診断と治療について、次のように考察した。
虚証とくに気虚、血虚が関与する病態では、たとえ特徴的な?血の所見が認められなくても、口腔粘膜には微小な循環障害が潜在する可能性がある。事実、再発性アフタに関する免疫学的研究では、潰瘍周囲に大量のBリンパ球が存在することが報告されており、この状態も一種の?血とみなすことができる。
このような循環障害部位は、血液の不足や停滞によって十分な栄養を受けられず、さらに血熱が集中するために、アフタが形成されやすいと考えられる。したがって、治療法は、「活血」と「清虚熱」がポイントとなる。
まず「活血」には、当帰や川?などの活血薬を使う。エキス剤では「四物湯」、効果が弱ければ、活血化?剤の「桂枝茯苓丸」を用いる。
次に「清虚熱」であるが、本症例の場合「滋陰降火湯」の知母、黄柏では清熱力が不充分であった。一般に虚熱を清する場合、苦寒薬は禁忌とされているが、アフタ周囲の炎症や疼痛の程度、偽膜の状態などから判断して、熱証が強ければ黄連などの清熱薬(エキス剤では黄連解毒湯など)を適量加えるべきである。また活血薬と併用することで、清熱薬を効率良く患部に運ぶことができる。

4.おわりに
「活血」と「清熱」の両方の作用を兼ね備えた「温清飲」は、標治薬として再発性アフタの治療に大変利用しやすい方剤である。本剤を、病態に合わせて本治薬(陰虚火旺証では「滋陰降火湯」や「六味地黄丸」、脾虚湿困証では「啓脾湯合平胃散」、心脾両虚証では「帰脾湯」など)と合方することによって、アフタの早期解決に役立てることができると考える。

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