ドライマウスの治療に、漢方と鍼灸は優れた効果を発揮します。
1.ドライマウスとは?
ドライマウスとは、唾液の分泌低下によって口腔内が乾燥する疾患です。
特に生命に関わる疾患ではないためか、今まであまり話題になりませんでした。しかし、社会の高齢化と共に口腔乾燥を訴える患者数も増加しており(現在では推定80万人とも言われています)、近年ドライアイと同様に日常生活に影響を及ぼす疾患として注目されています。
ドライマウスに特徴的な症状として以下のものがあげられます。
・口の乾きが三ヶ月以上毎日続いている。
・顎の下が繰り返し、あるいは常に腫れている。
・乾いた食べ物を飲み込む際に、しばしば水を飲む。
・水をよく飲む。
・乾いた食物を飲み込みにくい。
・口の中がネバネバする。
・口の中が粘って話しにくい。
・口臭がある。
・義歯で傷つきやすい。
2.ドライマウスの原因は?
ドライマウスの原因には、以下のものがあげられます
・糖尿病
・放射線障害
・脳血管障害
・老化
・薬(抗うつ剤・向精神薬・抗ヒスタミン薬・鎮痛薬・利尿剤など)の副作用
・ストレス
・シェーグレン症候群
これらの原因が単独で、あるいは複合して口腔乾燥を引き起こすと考えられています。
3.ドライマウスの治療は?
一般的に行われているドライマウスの治療は、口腔粘膜専用の保湿ジェルや人口唾液の使用などの対症療法が中心であり、根本的な解決にはなりません。(唾液分泌を促進する塩酸セビメリンなどの薬もありますが、残念ながら現在のところシェーグレン症候群以外は適応とならず、さらに副作用の問題も生じます。)
そこで当医院では、ドライマウスに対して東洋医学的な診断のもとに、漢方薬による治療を行っております。
東洋医学では、口腔は経絡(気血が流れる道)を通じて全身と広く関係しており、口腔内の病気は五臓六腑(内臓)の失調が原因で発症すると考えます。
口腔乾燥という症状も、何らかの理由で内臓機能が低下したために、口を潤す水分に異常が生じた状態であり、東洋医学的な診断法にもとづいて、何が原因でどの臓腑に問題があるのかを調べ、治療法を探していきます。
例えば、慢性病や老化が原因で全身の体液が不足すると、唾液も減少して口が乾きます。このような場合、水分を補い、体を潤す生薬を組み合わせた漢方薬処方します。
また、ストレスが原因で体の気のめぐりが悪くなると、体液や血液の循環も滞るため、唾液の分泌量が減少します。このような場合は、気をめぐらせて体液や血液を循環させる漢方薬を処方します。
4.治療例
症例1
平成14年1月、75歳の女性が口の渇きが気になるために来院しました。
この方の症状は、毎年秋から冬にかけてひどくなります。また口は乾燥しますが、特に水を飲みたいわけではなく、乾燥は午後から悪化します。さらに全身的には、足腰がだるく痛む、夜間の小便は2回、耳鳴りなどの症状が認められました。体はやせ気味で、舌の色はやや紅で乾燥して舌の苔はあまりありません。さらに脈は細く沈んでいます
この方の場合、五臓六腑のうちの肺と腎に問題があると診断し、肺と腎の水
分を補う「麦門冬湯」と「六味地黄丸」という漢方薬を2週間処方しました。
その結果、服薬5日目には乾燥は顕著に改善しました。さらに同じ薬を2週間投与したところ、2月には乾燥はほとんど気にならなくなり、その他の全身症状も改善されたため、治療を終了しました。
症例2
平成15年12月、やはり口腔乾燥が気になる70歳の女性が来院しまし
た。この方は半年程前から口が乾燥し、義歯の具合も悪くなりました。水分を多めに取るように気をつけていますが、乾燥は改善しません。
全身的には、1年前から腰と膝が痛みはじめ、整形外科に通院しています。ま
た高血圧・不眠のため内科にも通院し、血圧降下剤や精神安定剤を服用しています。さらに足のむくみ、寝汗、疲労感、便秘などの症状も認められました。舌の色は淡紅で舌苔は少なく、裂紋があります。また脈は細く少し速くうっています。
この方の場合、腎の水分の不足によって体内に弱い熱が生じた状態であると
診断しました。そこで腎の水分を補い、熱を冷ます「六味地黄丸」を7日分処方し、さらに鍼灸治療を行いました(太谿・三陰交・腎兪・大腸兪・風池)。
漢方は内から、鍼灸は外から体に働きかけて体調を整えます。
その結果、口腔乾燥に若干の改善がみられため、前回と同様に漢方薬を処方し、鍼灸治療を行ったところ、2週間後には乾燥はほとんど気にならなくなりました。患者さんの希望で、さらに「六味地黄丸」を二週間分投薬して治療を終了しました。
症例3
平成16年2月、54歳の女性が、口臭と口腔乾燥が主訴で来院しました。
詳しく問診したところ、2年程前から口の乾燥と口臭が気になり、口臭は歯磨
きを徹底しても改善しません。朝から午前中はさほどでもないが、午後は口が
乾燥して口臭が強くなるとのことでした。
さらに全身状態をお聞きすると、足の冷え、顔のほてり、顔から汗が出やすい、足首の浮腫み、疲労感、腹部の張り時々ゲップや胃もたれがある、ストレス感、イライラ、時に動悸、夢が多い、目が赤く疲れる、めまい、耳鳴りなどの症状が認められ、最終月経は平成15年11月とのことでした。
舌色は淡紅、舌苔は白色、舌の裏側の静脈が怒張し、脈は細く沈んでいます。
この方の場合、ストレスが原因で体中の気のめぐりが悪くなったために、水
分と血液の流れも滞り、さらに体内に熱が生じた状態であると考えられます。また、ストレスは胃腸の働きにまで悪影響を及ぼしています。
そこで気をめぐらせ、肝と腎を補う「加味逍遙散」と「四物湯」を7日分処方しました。
その結果、1週間後には口の乾燥、イライラ、のぼせなどの症状が軽減しました。さらに同じ漢方薬を2週間処方したところ、その後、乾燥と口臭を感じることはなくなりました。